<研究課題 概要>

研究課題: 乳児期発症てんかん/PKDの遺伝学的背景と臨床像の研究

研究の趣旨:

良性乳児てんかん(benign infantile epilepsy; BIE)は乳児期に発症するてんかんである。大部分が孤発例だが、常染色体優性遺伝を呈する家族例も認められる (benign familial infantile epilepsy; BFIE)。また、一部の症例では、思春期から20代にかけて発作性運動誘発性ジスキネジア(paroxysmal kinesigenic dyskinesia; PKD)を認めることがある。
BFIEの約4割にPRRT2遺伝子変異が同定される。代表的な変異は一塩基挿入による機能喪失型変異であるが、この変異は報告された変異のうちの約1/3に過ぎず、過去に報告された変異はアミノ酸コード領域の全域に散在している。ナンセンス変異だけでなくミスセンス変異も報告されている。PRRT2はシナプスに局在し、シナプス小胞の膜融合・神経伝達物質の放出に関与している。
BIEは予後良好な疾患で大部分は1歳6か月までに発作が消失するが、乳児期発症時にはBIEと思われてもその後の経過が不良でBIEから外れる症例もあるため、発症時には暫定診断しかできない。そのため、2歳頃に最終診断がつくまで患者家族は不安を感じつつ過ごすことになる。また、BIE症例の中でもPRRT2変異の有無による臨床経過の違いはいまだ不明な点が多い。早期にPRRT2遺伝子解析を行うことで、これらの問題の解決に寄与できる可能性がある。

研究の目的:

本研究の目的は、乳児期発症のてんかん症例を集積し、症状・遺伝学的背景・治療方針とその後の経過を解析し、適切な診断や治療選択の一助とすることである。
本研究によって、PRRT2変異の有無による臨床経過の違いが明らかになることが期待される。また、PRRT2変異が判明すると、より確実にBIEと診断でき予後も予想しやすくなる。
早期に遺伝子解析を行いその情報を提供することはご家族の不安の軽減につながると予想される。また、作用の異なる抗てんかん薬の効果の違いを検討することは、てんかん病態のさらなる解明と、BIEに対してのよりよい治療選択につながることが期待される。

研究の方法:

愛知医科大学病院および共同研究施設で診療されている、主に乳児期にてんかん発作を発症した症例とその家族、および、発作性運動誘発性ジスキネジア(PKD)の症例とその家族を対象とする。
対象数は限定しないが、患者対象者50例と患者の両親100例程度を予定する。家族例の頻度は少ないため両親は健常である場合が多いが、両親のどちらかに乳児てんかん/PKDを認める場合も対象とする。
患者対象者については、脳形成異常など明らかな原因を認める場合、および、点頭てんかんなど他のてんかん症候群と診断しうる場合は対象から除外する。健常者については、研究対象となる同意を得られない場合、および、患者と遺伝学的な血縁関係がない場合は対象から除外する。

愛知医科大学病院とその共同研究施設で臨床情報を診療録から収集する。個人情報は匿名化(対応表あり)を行い、以後実験・研究を通じID番号を利用することにより個人識別が実験室内では行えないように配慮する。

試料として血液5mlを収集する。研究の同意が得られた際に、1回採血を行う。
患者対象者の血液は診療等に伴い採取する試料の量を増量して使用する。
健常者(患者対象者の両親)の血液は、患者対象者の採血と同時に採取する。採血手技とそのリスクは通常の医療行為と同様である。

血液からDNAを抽出し、サンガー法でPRRT2遺伝子解析を行う。
同定された変異が以下の場合、疾患と関連すると考えられると判断する。
①機能喪失型変異である場合
②ExAC(Exome Aggregation Consortium)などの変異頻度データベースで健常者に同様の変異を認める頻度が1%以下、かつ、患者さんおよび研究に協力いただいたご家族の症状と変異の遺伝様式に矛盾がない場合
③同一の変異が良性乳児てんかんやPKDにおいて過去に報告されている場合

登録時から2歳時までの臨床情報を収集する。PRRT2遺伝子変異の有無により、抗てんかん薬の効果の違いなどの臨床症状の違いがあるかを検討する。

遺伝子解析により保護者の不安が軽減したか、を主眼として、保護者に対するアンケートを遺伝子解析結果報告時に施行する。

研究機関:

愛知医科大学
研究責任者:愛知医科大学医学部小児科学講座・講師 倉橋 宏和
研究責任者:愛知医科大学医学部小児科学講座・教授 奥村 彰久
研究責任者:愛知医科大学医学部小児科学講座・講師 岩山 秀之
研究責任者:愛知医科大学医学部小児科学講座・大学院生 沼本 真吾

多施設共同研究として愛知医科大学医学部倫理委員会で承認されており、愛知四大学およびその関連病院を共同研究施設として受け入れ可能である。

連絡先:

研究代表者
愛知医科大学 医学部小児科 倉橋 宏和
〒480-1195 長久手市岩作雁又1番地1
TEL: 0561-62-3311(内線22149)
FAX: 0561-63-4835
Email: urahashi.hirokazu.736@mail.aichi-med-u.ac.jp(@を半角@に変えて送信してください)

各大学研究担当者
愛知医科大学: 倉橋 宏和
名古屋市立大学: 服部 文子
名古屋大学: 夏目 淳
藤田保健衛生大学: 石原 尚子